
前書きより
バカはサイレンで泣く。通称バカサイが週刊SPA!で連載を開始して、今年で二十年になるという。たしかに自分たちの始めたことだがまるで実感がない。とくに感慨もない。
当時、編集部は曙橋にあった。その頃は毎週のように六本木の安キャバクラに通った。アフターの約束を取り付け早朝の寒さのなか女を待った。あの頃の女たちはとっくに母親か。子供はもう思春期かもしれない。現在編集部は浜松町にある。駅から扶桑社まで徒歩五分、季節の変わり目は東京湾からの潮風で分かる。初夏には磯の香りがする。もう何度嗅いだか分からない。
担当編集者は何度も変わった。編集長も変わった。多くの投稿者が現れては去って行った。初期の投稿者はおかしなヤツが多かった。ヤツらは後に芸人になったり、キックボクサーになったり、オカマになったりした。なぜか毎週編集部に遊びに来るうち仲間になった男もいる。いまの投稿者もろくな人間にならないだろう。それでいい。
当たり前の話だが投稿が掲載されたからといって金がもらえるわけではない。昔はゴミ同然の景品を出していたがいまはそれすらない。彼らは無償の情熱によって、あるいは完全なる自己満足によって、あるいはただの惰性で、毎週まったく世の中のためにならない戯言を送ってくる。戯言の世界ではためになった時点で負けだ。彼らは決してためにならないよう互いを牽制し、鎬を削り、さらなる荒野を目指している。報酬はない。
世間はためになる言葉であふれている。もっともな正論にあふれている。お得な情報であふれている。俺たちから見ればみんな糞だ。世間は糞にまみれている。だからといって俺たちが清いわけではない。俺たちの方がより、糞だ。だから自前で便所を建てた。便所は平等だ。神様はいない。
先のことは分からない。というか関係ない。二十年間同じことをやってきた。いまさら世間がどんなに変わろうと俺たちが知ったことではない。彼らの糞が、無償の糞が届く限り、便所掃除を続けるだけだ。投稿者および読者のみなさん、いつもきれいに使っていただきありがとうございます。
バカサイ一同
バカサイ単行本「バカサイ'13」2/22日扶桑社より発売
サイン会3/8日 @下北沢VILLAGE VANGUARD
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